長年のお悩みを抱えている方ほど、こんな言葉を口にしやすくなります。
「もう長いから変わらない気がする」
「以前も色々試したけれど、納得できなかった」
「時間もお金も使って、また変わらなかったら嫌だ」
「今さら行っても遅いかもしれない」
実はこうした気持ちの背景には、意思の弱さではなく、行動経済学や心理学で説明される自然な心の働きがあります。
その一つが損失回避です。
人は、何かを得る喜びより、何かを失う痛みをより強く感じやすいとされています。
つまり、
「整うかもしれない」
という期待より、
「変わらなかったら時間もお金も無駄になる」
という不安を強く感じやすいのです。
この心理が強くなると、実際には放置にも大きなコストがあるのに、それが見えにくくなります。
たとえば、
- 仕事の集中力が落ちる
- 休日が回復に終わる
- 表情がこわばる
- 家族や人間関係にも余裕がなくなる
- 美容面も後回しになる
- 常にどこか不調を抱えた状態で過ごす
これらはすべて、静かに積み上がる損失です。
しかし人は、目の前で支払うお金や、予約にかかる手間のような「見える損」には敏感でも、慢性的に積み重なる「見えにくい損」には鈍くなりやすい傾向があります。
もう一つ大きいのが、学習性無力感です。
何度もつらさを抱えたり、対処しても納得いく変化を感じられなかった経験が続くと、
人は
「何をしても無駄」
と感じやすくなります。
APAでも、コントロールできない体験が続くと、行動しても変わらないと学習してしまい、可能な対処すらしなくなる現象として説明されています。
慢性症状の方に多いのは、
- とりあえず休む
- その場しのぎで乗り切る
- 本格的に向き合うのは後回しにする
- 悪化した時だけ対処する
という流れです。
これ自体は、その時その時を乗り切るために必要だった対処でもあります。
ただ、それが長年続くと、
「改善のために動く」
という発想そのものが弱くなってしまうことがあります。
さらに、医療回避に関する研究では、相談しない理由は一つではなく、恐れ、忙しさ、恥ずかしさ、費用、症状の自己判断などが複雑に絡むことが示されています。つまり、動けない人はだらしないのではなく、むしろ色々な要因が重なって動けなくなっているのです。
だからこそ、長年の悩みを放置してきた方ほど必要なのは、
「まだ我慢が足りない」と考えることではありません。
必要なのは、
なぜ動けなかったのかを理解し、今の自分を責めないことです。
当院では、単に「通ってください」と押し出すのではなく、
今の状態を丁寧に確認し、何が重なっているのか、どこから整えるべきかを一緒に見極めていきます。
本気で改善したい方ほど、勢いだけで決める必要はありません。
ただし、
「今さら遅いかも」
と思って放置し続けることが、結果としていちばん遠回りになることもあります。
次回は、そんな脳と心のブレーキを外すために、
やる気を待たずに一歩を踏み出す考え方
について解説します。

