― 口腔環境と胃腸のつながりを整える ―
「最近、口内炎が治りにくい」「歯ぐきが腫れやすい」「口臭が気になる」
こうしたお悩みの背景には、胃腸の不調が隠れていることがあります。
近年では、口腔環境と腸内環境は相互に影響し合うことが研究で明らかになっており、
これを「オーラル–ガット・アクシス(口腔–腸相関)」と呼びます。
つまり、口の健康は胃腸の状態を映す鏡でもあるのです。
1. 歯周病菌が腸の炎症を悪化させる
口腔内には約700種類もの細菌が存在し、その中には歯周病菌(Porphyromonas gingivalis)のような病原菌も含まれます。
この菌が唾液や食事を通じて腸内に到達すると、腸のバリア機能が低下し、炎症性腸疾患(IBD)や大腸炎を悪化させることが確認されています。
実際に、歯周病のある人は腸の炎症リスクが約30%高いという報告もあります(Kitamoto et al., J Dent Res, 2020)。
つまり、口の炎症が腸の炎症を引き起こす“見えない経路”が存在するのです。
2. 胃腸の不調が口の健康を乱す
一方で、胃腸が弱ると口腔内にも影響が現れます。
胃酸過多や逆流性食道炎では、口内が酸性に傾き、歯のエナメル質が溶けて知覚過敏や口臭を引き起こすことがあります。
さらに、消化吸収がうまくいかないと、ビタミンB群・亜鉛・鉄などが不足し、口内炎・歯ぐきの腫れ・舌炎といったトラブルが起こりやすくなります。
これは「胃腸からのサイン」としての口腔症状と考えられます。
3. ピロリ菌は歯垢の中にも潜む
胃炎や胃潰瘍の原因菌として知られるピロリ菌(Helicobacter pylori)は、
実は歯垢や舌苔にも生息することが確認されています(Liu, PMC, 2021)。
そのため、胃の治療だけを行っても再感染を繰り返すケースがあり、
根本改善には「口腔内の除菌ケア」も重要です。
4. 咀嚼の乱れが消化に負担をかける
虫歯や噛み合わせ不良でしっかり咀嚼できないと、食べ物が大きいまま胃に送られ、
消化に時間がかかって胃もたれ・ガス・膨満感を引き起こします。
「よく噛む」という行為は、腸の健康を守る第一歩でもあり、
咀嚼筋の過緊張(食いしばり)を整えることも、胃腸の働きを助ける重要なケアになります。
5. 鍼灸で整える「口腔–胃腸バランス」
当院では、口腔と胃腸の関係に着目し、鍼灸で両面から整える施術を行っています。
- 内関(ないかん)・足三里(あしさんり):胃腸の働きを促進し、食欲不振や胃もたれを改善。
- 合谷(ごうこく)・頬車(きょうしゃ):咬筋や顔面筋の緊張を緩め、噛みしめ癖を軽減。
- 自律神経の調整:副交感神経を優位にし、消化吸収と唾液分泌をサポート。
さらに美容鍼を組み合わせることで、フェイスラインのむくみや表情の硬さも改善され、
「噛む・消化する・巡らせる」体の本来のリズムを取り戻していきます。
まとめ
口腔と胃腸は、どちらか一方の不調がもう一方を乱す鏡の関係にあります。
歯ぐきの腫れや口臭、口内炎の背景に、胃腸の疲れが潜んでいることも少なくありません。
鍼灸による全身調整と栄養学の食事サポートを通じて、
「口から整う体づくり」を行うことが、真の健康への近道です。

参考文献
- Kitamoto S. et al. The Bacterial Connection between the Oral Cavity and the Gut Diseases. J Dent Res (2020)
- Liu S. The oral microbiome and oral and upper gastrointestinal diseases. PMC (2021)
- Rajasekaran J.J. Oral Microbiome: A Review of Its Impact on Oral and Systemic Health. PMC (2022)
- Hall B. The Impact of Gut Health on Oral Health. (Brian Hall DDS)

