歯科で作ってもらったマウスピースは、毎晩つけている。少し前まで通っていた整骨院でも、肩や首をほぐしてもらっていた。それでも——口の閉じ方が、わからなくなる時がある。
「自分で、どうすればいいのか、わからないんです」
A様(30代女性)が、当院に初めていらっしゃった日、いちばん辛そうにされていたのは、症状そのものよりも、この「出口の見えなさ」でした。
「対処はしている。なのに食いしばりが抜けない」——多くの方が口にされる言葉
ご来院時のA様は、ご自身でできることを、ほぼ全部やっていらっしゃる方でした。歯科にも整骨院にも通われ、ストレッチも筋トレも続けていらっしゃる。お仕事もデスクワーク中心になってから、無意識の噛みしめが増えている自覚があり、日中もそれを抑えようと努力されていました。
それでもなお、ご自身の体の中で、何かが行き止まりになっている感覚があるとのことでした。
「マウスピースは、歯を守ってくれているんだと思います。でも、食いしばりそのものは、変わっていない気がして」
A様のこの一言は、食いしばりでお悩みの多くの方が、心のどこかで感じていることだと思います。マウスピースは、歯を守るためにとても大切な対処です。一方で、「どうして食いしばってしまうのか」というもうひとつ手前の問いには、別の角度からのアプローチが必要になることがあります。
「食いしばりの治療をしてくれるところって、なかなか見つからなくて。インスタとかで見つけたいいなと思う院は、都内じゃなくて遠かったり…」
A様は、ご自身で必死に探していらっしゃったのです。それでも見つけられなかった出口を、もう一度一緒に探していくところから、当院での時間は始まりました。
食いしばりが起こりやすくなる背景にある「3つの層」
カウンセリングと触診を通して、A様の食いしばりが起こりやすくなっている背景には、いくつかの「層」があることが見えてきました。具体的な細部はお一人おひとりで違うため、ここでは大きな枠組みだけお伝えします。
1. お体の使い方の蓄積(姿勢の常態化)
お仕事の姿勢が、長い年月をかけて体に染み込んでいくと、ある時から「噛みしめのスイッチが入りやすい体の状態」が常態化していくことがあります。A様の場合、首・肩・お顔まわりに、その蓄積がはっきりと現れていました。
2. 気持ちの張り詰め(無意識の緊張)
A様は「考えすぎてしまう」「気を使いすぎてしまう」と、ご自身でも自覚されていました。これは、ハイパフォーマンスを発揮される方によく見られる繊細さでもあり、それ自体が悪いことでは決してありません。ただ、その繊細さが24時間オンのままになっていると、無意識の噛みしめにつながりやすい側面があります。
3. お体の内側のコンディション
日々の習慣、季節、ご自身の体質、ご年齢など、たくさんの要素が重なって、お体の内側のバランスは日々変わっていきます。食いしばりは、この内側のコンディションとも、深いところでつながっています。詳しい内容は、お一人おひとりのお体に合わせてご案内させていただきます。
「マウスピースだけでは抜けにくい」と感じられる方が少なくないのは、このように複数の層が同時進行しているケースが多いためです。
「鍼が怖い」という方へ。その怖さに寄り添う当院の施術
A様は、ご来院前から「鍼が怖い」とおっしゃっていました。電気のあるものも苦手とのこと。それでも、ご自身の食いしばりを本気で抜けたいという気持ちで、ここまで足を運んでくださいました。
「怖いですよね。当然です」
私は、まず手にあるツボに一本だけ、お試しで鍼を入れさせていただきました。「あれ、思ったより…」と、A様が少し緊張をゆるめてくださった瞬間。
そこから先は、A様の表情を見ながら、お一人おひとりに合わせて、ゆっくりと進めていきます。具体的な施術内容は、その日のお体の状態によって変わるものなので、ここでは詳しくは書きません。ただ、共通してお伝えしているのは「無理をしない」「ご本人のペースを最優先」という姿勢です。
施術が終わった後、A様は、ふっと表情をゆるめて、こうおっしゃってくださいました。
「あ、軽い」
辛さがゼロになった、という意味ではありません。ご本人の感覚として、お体が少しだけほぐれたという、その小さな手応え。それは、A様が抱えていた「自分で、どうすればいいのか、わからない」という閉塞感に、わずかに光が差した瞬間のように、私には見えました。
(※あくまでご本人の感覚であり、変化の現れ方には個人差があります。)
ご自宅でできる、食いしばりを防ぐための小さな見直し
A様には、ご自宅でお試しいただける小さな見直しを、いくつかお伝えしました。お一人おひとりのお体や生活リズムによって内容は変わるため、ここでは詳しくは書きませんが、いずれも「無理なく続けられること」を最優先にしています。
食いしばりは、施術の時間だけで完結するものではなく、日々の小さな積み重ねの中で、少しずつ、お体が「噛みしめなくていい状態」を思い出していくものだと、私たちは考えています。
次回への小さな期待と、これからの物語
「次回までの2週間、何か変化を感じていただけるといいですね」——そうお伝えして、A様の初回は終わりました。
「自分で、どうすればいいのか、わからない」という状態から、ほんの少しだけ前に進めた一日。A様の物語は、ここから本当に始まります。
第2部では、2週間後にA様が再来院されたとき、私たちが一緒に考えた「楽になる、戻る、を繰り返すのはなぜか」というテーマをお伝えします。
当院について
慧仁治療院は、東京都足立区入谷にある鍼灸・整体院です。
施術歴17年、延べ10万1千人以上のご相談実績をもとに、認定美容鍼灸師上級マスター・YNSA正規許可施術者・ONP分子栄養学認定資格を保有する男性施術者が、お一人おひとりに丁寧にご対応させていただいております。
足立区入谷・西新井・大師前・北千住・竹ノ塚・舎人・舎人公園・江北・日暮里・草加エリアの30代・40代・50代の女性を中心に、美容鍼・小顔ケア・肩こり・頭痛・食いしばり・自律神経のお悩み・睡眠のご相談を承っております。

